前橋地方裁判所 昭和33年(ワ)68号 判決 1963年6月13日
主文
被告は原告に対し金八八、四五〇円及びこれに対する昭和三三年四月二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分して、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、請求の趣旨として、
一、被告は原告に対し金一、〇七四、四五一円及びその内金八八三、八〇〇円に対する昭和三三年四月二日より完済まで、金一九〇、六五一円に対する昭和三六年七月二一日より完済までそれぞれ年六分の割合による金員を支払え。
二、被告は原告に対し三井造船株式会社株券(全額払込済)一、〇〇〇株、明治製糖株式会社株券(全額払込済)五〇〇株、神戸製鋼株式会社株券(全額払込済)五〇〇株を引渡せ。若し引渡について強制執行ができないときは、被告は原告に対し金三八七、〇〇〇円及びこれに対する昭和三六年六月三〇日より完済まで年六分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求め、
第一、その請求の原因として、
一、被告は、昭和三六年六月六日、三愛商事株式会社(以下単に三愛商事と略称する)を吸収合併したものなるところ、原告は東京繊維商品取引所および東京穀物商品取引所の商品仲買人であつた右三愛商事に対し別紙取引委託一覧表記載のとおり東京繊維商品取引所および東京穀物商品取引所における売買取引を委託し、その証拠金として別紙預託一覧表記載のとおり現金並びに後記利益金充当分合計金八八七、〇〇〇円と各株券とを交付して預託したところ、三愛商事は、別紙取引委託一覧表中、売玉の部および買玉の部(2)、(10)、(11)記載の各売買を取引所で成立させただけで、その余の取引を上場しなかつたため、委託した限月を経過し、原告は、取引を行うことが不可能となり、従つて、取引不能となつた各銘柄についての売買委託契約は、取引時期の経過により解除され、右証拠金並びに代用証券の返還債権を有する。
二、原告は、別紙取引委託一覧表売玉の部(1)、(2)、買玉の部(2)の利益金三四、九二〇円を別紙預託一覧表(4)記載のとおり証拠金として預託したけれども、別紙取引委託一覧表売玉の部(3)、(4)および買玉の部(10)、(11)記載の売買により別紙取引明細表記載のとおり三愛商事に対し金一、六〇〇円の利益金債権があるので、これと前記売買証拠金八八七、〇〇〇円との合計金八八三、八〇〇円の支払請求権を有する。(原告は、右利益金一、六〇〇円が委託手数料金四、八〇〇円を控除したものであるに拘らず、更に手数料四、八〇〇円を差引き、金八八三、八〇〇円と誤算したこと明白で、計数上右金額は、金八八八、六〇〇三、原告が三愛商事に預託した別紙預託一覧表中有価証券の部の記載の株券のうち、片倉工業株式会社および日本カーリツト株式会社の株式各五〇〇株の株券は、既に返還を受け、日鉄鉱業株式会社の株式五〇〇株も精算済みであるが、その余の株券円となる)は、未だ返還を受けていないところ、三愛商事は、三井造船株式会社株式(額面一株金五〇円、全額払込済)一、〇〇〇株、明治製糖株式会社株式(額面一株金五〇円、全額払込済)五〇〇株、神戸製鋼株式会社株式(額面一株金五〇円、全額払込済)五〇〇株を原告の承諾もなく、昭和三三年三月二〇日、それぞれ第三者に売却処分してしまつたため、その後右各株式につき別紙株式明細第一表記載のとおり行われた旧株配当、新株割当および新株配当を受けることができず、旧株配当金、新株時価相当額並びに新株配当金合計金一九〇、六五一円(但し計数上一八〇、六五一円)の得べかりし利益を喪失した。
四、よつて、原告は、被告に対し、前記金八八三、八〇〇円と、これに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和三三年四月二日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による金員、前記金一九〇、六五一円とこれに対する昭和三六年七月二一日から支払済まで前同年六分の割合による金員の各支払い並びに、前記各株式の引渡しを求め、右株式の引渡し不能の場合は、昭和三六年六月二九日現在三井造船株式会社株式一株金一一九円、明治製糖株式会社株式一株金四六五円、神戸製鋼株式会社株式一株金七一円の各価格であるので、その相当額合計金三八七、〇〇〇円とこれに対する昭和三六年六月三〇日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求めるため本訴に及んだ次第である。
と述べ
第二、予備的請求の原因として
一、三愛商事は、その業務遂行のため、前橋市に出張所、渋川市に連絡所を設置し、その使用人であつた訴外青木仁平、同小井土誠一等は、三愛商事の業務執行として売買取引委託を真実履行する意思がないのにあたかも真実履行するかの如く原告を欺いて、原告をして三愛商事に別紙取引委託一覧表記載のとおり売買取引を委託させ、その証拠金および証拠金代用証券として、別紙預託一覧表記載のとおり合計金八八七、〇〇〇円および各株券を預託させたにも拘らず、右訴外人らは、別紙取引委託一覧表中売玉の部と買玉の部(2)、(10)、(11)に記載した分を除いて取引市場に上場する手続をせず、委託の趣旨に従つた履行をしなかつた。
二、三愛商事は、右被用者等の不法行為を知つた後、偶々原告のなした売買取引委託が履行されていたならば原告の損失になつていたであろうことを奇貨とし、原告の不知に乗じて、損失を原告に転嫁せんと目論み、先ず昭和三二年一〇月一九日残高照合通知書を原告に送付して原告の承認印を求め、被用者らの不法行為を隠蔽して原告のなした売買の委託が履行されたかの如く装い、その旨原告を誤信させんとしたが原告がこれを承認しなかつたため、三愛商事では、同年同月八日および同年一一月二八日に原告の委託したと同数の取引の媒介付出を理由とし一方的に計算したうえ、原告の預託した証拠金および各株式を勝手に処分した。
三、そこで原告が三愛商事に対してなした売買取引委託および証拠金、証拠金代用証券の各預託はいずれも三愛商事の被用者である前記訴外人らのなした詐欺にもとづくものであるから、原告は本訴において、右委託の意思表示を取消し、被告に対し前記証拠金等合計金八八三、八〇〇円の支払、証拠金代用証券の返還並びに右不法行為に基く損害金一九〇、六五一円の支払とを求める。
と述べ、
第三、抗弁に対する答弁として、
一、抗弁の一の各事実中、原告が別紙取引明細表の内(1)、(2)、(11)、(12)(別紙取引委託一覧表売玉の部(1)、(2)、買玉の部(2)、売玉の部(3)、(4)、買玉の部(10)、(11)に各該当)の委託をし、取引が成立したこと、仲買人に先物取引の委託をしようとするものはすべて商品取引所受託契約準則に従つて契約しなければならないこと、東京繊維商品取引所、東京穀物商品取引所の各受託契約準則中に被告主張のとおりの趣旨の規定があることは認めるが、その余の事実はすべて否認する。
二、抗弁の二の事実はすべて否認する。
三、抗弁三の事実のうち、三愛商事が被告の主張する取引委託又は売却処分全部を承認したうえ被告主張の日正規の手続をとつたとの点および三愛商事が原告に対し被告主張の債権を有するに至つたことは否認し、三愛商事が被告主張の株券をその主張の計算で売却処分したことおよび右処分が原告に対する債権の清算のためとしてなされたことならびに訴外青木仁平が三愛商事に金一〇、八〇〇円を差し入れたのが原告のためであるかどうかはいずれも不知、その余の事実はすべて争う。
四、抗弁三の事実も争う。
と述べ、
第四、(立証省略)
被告訴訟代理人は、「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、
第一、請求の原因に対する答弁として、
一、請求の原因一の事実中、別紙取引委託一覧表買玉の部(1)、(3)ないし(9)について取引市場に上場せず取引を成立させなかつたとの点、被告が証拠金、代用証券の返還債務を有するとの点、取引委託解除の点をそれぞれ否認し、その余の事実は認める。
二、請求の原因二の事実中、被告が原告に対し金八八三、八〇〇円の支払義務のあることは否認、その余の部分は認める。
三、請求の原因三の事実の中、三愛商事が原告主張の片倉工業株式会社および日本カーリツト株式会社株式各五〇〇株の株券を原告に返還したこと、日鉄鉱業株式会社株式五〇〇株につき精算したこと、三愛商事が原告主張の各株式をいずれも売却処分したことは認め、その余の各事実はすべて争う。
と述べ、
第二、予備的請求の原因に対する答弁として、
一、原告の不法行為に基く損害賠償請求の主張および詐欺による取消の主張は、いづれも故意又は重大な過失により時機に遅れて提出されたもので、之がため訴訟を遅延せしめ、不適当である。
二、仮に右申立てがいれられないとしても、原告が三愛商事に対してなした取引の委託が訴外青木仁平らの詐欺によるものであるとの原告主張はすべて否認する。
と述べ、
第三、抗弁として、
一、三愛商事は、原告から昭和三二年中に原告主張にかかる別紙取引委託一覧表各銘柄品の売買取引の委託を含めて、別紙取引明細表中(3)ないし(10)記載の人絹糸の売付処分を除くその余(右明細表中(1)、(2)の売買、(3)ないし(10)の買付、(11)ないし(33)の売買)の各先物売買取引の委託を受け、取引市場で右各商品の取引をしたが、別紙取引明細表中(3)ないし(10)記載の人絹糸の売付処分は、原告の委託に基づくことなく、三愛商事が任意に実行したものであつて、その事情は、つぎのとおりである。すなわち先物の売買取引を仲買人に委託しようとする者は、すべて商品取引所の受託契約準則に従つて仲買人と契約するものであつて、東京繊維商品取引所および東京穀物商品取引所の各受託契約準則中には、委託者は一定額の売買委託証拠金またはこれに相当する有価証券を仲買人に預託すべきこと、その取引値段とその後の単一約定値段との比較の結果損益差引額の損失が委託証拠金の五割を越えた場合には、仲買人は追証拠金と称する証拠金の増額追徴を委託者に請求することができ、委託者がその納入を拒絶したばあいには仲買人は委託建玉を任意処分して従来の取引関係から生じた損金に充当することができる旨の規定があるところ、原告は右(3)ないし(10)に記載した人絹糸計五五枚の買付を委託したが、その後の値下がりによつて昭和三二年八月七日現在で手数料を除いた損金九六五、七五〇円を生じ、右損金が原告の預託した証拠金八八七、〇〇〇円および証拠金代用証券の換算金額との総計金一、一七九、五〇〇円の半額金五八九、七五〇円を超過するに至つたため、三愛商事は、同年八月七日、原告に右損金と法定証拠金四四四、〇〇〇円の合計金一、四〇五、七五〇円と右預託証拠金一、一七九、五〇〇円との差額金二二六、二五〇円の追証拠金納入を請求したけれども、原告がこれに応じなかつたため、やむをえず同日各人絹糸の売却処分をしたのである。
二、三愛商事は、取引明細表記載の取引委託又は売却処分全部を承認したうえ、昭和三二年一〇月一八日、同年一一月八日、正規の手続(取引所に媒介付出)をし、原告に対し売買差金と売買取引委託手数料との合計金一、〇八三、一八〇円の債権を有するに至つたので、これを清算するため昭和三三年三月二〇日、予て原告から預託を受けていた(イ)三井造船株式会社株券一、〇〇〇株、(ロ)明治製糖株式会社株券五〇〇株、(ハ)神戸製鋼株式会社株券五〇〇株を別紙株式関係第二表記載のとおりの計算で売却処分し、換価代金二三四、二四三円を得たほか訴外青木仁平から原告のために金一〇、八〇〇円を被告に差入れていたため、右金員と売買取引委託証拠金八五二、〇八〇円(利益金三四、九二〇円振替分を除く)、前記有価証券の売却代金二三四、二四三円との合計金一、〇九七、一二三円を前記金一、〇八三、一八〇円の弁済に充当した残金一三、九四三円を原告に返還して清算を完了した。
三、又仮りに三愛商事が原告から委託を受けながらその過失等により取引市場で取引をする時期を失し、または全然取引を怠つた分があるとしても、三愛商事は右各建玉およびその処分に関する計算をするに当り、委託の趣旨に従い商品市場で取引された場合と同一の計算方法によつて清算したから、結局原告は三愛商事の債務不履行によつてなんらの損失を蒙つていない。と述べ、
第四、(立証省略)
取引委託一覧表
一、売玉の部
<省略>
二、買玉の部
<省略>
<省略>
預託一覧表
一、現金
<省略>
二、有価証券
<省略>
株式関係第一表
第一、旧株式関係
一、三井造船株式会社 一、〇〇〇株
自昭和三三年三月期、至昭和三五年三月期 配当年一割五分
自昭和三五年九月期、至昭和三六年三月期 配当年一割二分
税一割控除、手取配当金合計金二二、二七五円
二、明治製糖株式会社 五〇〇株
自昭和三三年三月期、至昭和三六年三月期 配当年三割
税一割控除、手取配当金合計金二三、五二五円
三、神戸製鋼株式会社 五〇〇株
自昭和三三年三月期、至昭和三六年三月期 配当年一割二分
税一割控除、手取配当金合計金 九、四五〇円
右配当金合計 金五五、二五〇円
第二、増資新株式関係
一、三井造船株式会社
旧株式一株に付新株一株割当、昭和三五年二月二五日、一株に付金四五円(合計金四五、〇〇〇円)払込
新株一、〇〇〇株
時価 金一一九、〇〇〇円
昭和三五年三月期 配当年一割二分 一月分、金四五〇円
自昭和三五年九月期、至昭和三六年三月期 年一割二分配当金五四、〇〇〇円
右払込金控除、損害金合計 金七九、八五〇円
二、明治製糖株式会社
旧株式一株に付新株〇・一株割当、無償、新株五〇株
時価 金二三、二五〇円
昭和三五年九月期 配当年三割 二月分、金一一三円
昭和三六年三月期 配当年三割 金三三八円
損害金合計 金二三、七〇一円
三、神戸製鋼株式会社
(イ) 旧株式一株に付新株式〇・五株割当、昭和三四年一〇月一日、一株に付金四〇円(合計金一〇、〇〇〇円)払込、新株二五〇株
時価 金一七、七五〇円
自昭和三三年三月期、至昭和三六年三月期、配当年一割二分
税一割控除、手取配当金二、〇二五円
(ロ) 旧株式一株に付新株式三分の二株割当、昭和三五年九月一日一株に付金三〇円(合計金二五、〇〇〇円)払込
新株五〇〇株
時価 金三五、五〇〇円
昭和三五年九月期 配当年一割二分 一月分 金二二五円
昭和三六年三月期 配当年一割二分 金一、三五〇円
税一割控除、手取配当金合計 金二一、八五〇円
右損害金合計 金一二五、四〇一円
株式関係第二表
<省略>
取引明細表
<省略>
<省略>
<省略>